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【百周年特別企画】協会員が選ぶ「想い出の一番」≪第3回:平成時代≫

日本相撲協会、財団設立百周年を迎えるにあたり、この度、【百周年特別企画】として協会員から「想い出の一番」を募集しました。

「相撲を好きになるきっかけとなった想い出の一番」や、「後世に残したい取組」など、昭和初期から近年のものまで、数ある名勝負の中から、これぞという“大一番”を紹介してもらっています。

当時の映像と、協会員のコメントをあわせてお楽しみください。協会員は役職のみ記載しています。誰のコメントなのか、想像しながら読み進めていただけるとなお味わい深くお楽しみいただけます。

第3回目は、≪平成時代≫の珠玉の取組を七番お届けします。
 

 

平成6年一月場所七日目

曙 ●河津掛け○ 貴ノ浪

選出者:床山

選出コメント:「最初で最後の変則的な立ち合いで貴ノ浪関が勝利する」

 

平成6年(1994年)初場所、それまで横綱相手に勝ち星がなかった当時関脇の貴ノ浪が、本人が得意とする決まり手・河津掛(かわづが)けで見事勝利。この場所13勝2敗の成績で大関昇進を決めました。変則的な仕切り、珍しい決まり手、釘付けになること間違いなしの一番です。
 

 

平成6年七月場所五日目

舞の海 ○外掛け● 武双山

選出者:年寄

選出コメント:「付人として花道のモニターでいつも取組を観ていましたが、舞の海関の真骨頂が感じられる想い出の一番です」

 

小さな土俵で颯爽と動き、多彩な技で大型力士を倒して、相撲ファンを魅了し続けた舞の海。そんな人気力士を支え続けた当時の付け人が、自身の「想い出の一番」を語ってくれました。平成6年(1994年)名古屋でのこの一番は、その展開の速さと驚きの連続で、場内は悲鳴にも似た歓声が上がり続けます。一瞬たりとも見逃せない、後世に語り継がれる好取組です。
 

 

平成8年七月場所二日目

舞の海 ○下手捻り● 小錦

選出者:年寄

選出コメント:「(上記武双山との取組から)2年後の名古屋場所では、小錦関と対戦しひざの大けがをして、花道奥までは歩いて来ましたが、そこからはくずれ落ちるように私にもたれかかり、支度部屋までおんぶでかついでいった思い出があります」

 

“猫だまし”に遭ったのは小錦だけでなく会場の観客も――あっと驚く間もなく相手の懐に潜り込んだ “小兵” が、巨漢力士小錦を攻め続けます。この平成8年(1996年)名古屋での勝利で、舞の海は左ひざに大怪我を負ってしまいます。すぐに立てなかった舞の海に手を差し伸べる小錦、勝ち名乗りを受けた後の付け人とのエピソード……ドラマが詰まった大一番です。

 

 

平成10年一月場所十日目

貴乃花 ●腕捻り○ 湊富士

選出者:行司

選出コメント:「平成10年1月20日(十日目)、湊富士関が貴乃花関に勝った一番です。長い相撲で、湊富士関が勝った瞬間はとても嬉しく、当時とても厳しく弟子に笑顔を見せなかった先代湊親方が、その晩焼き肉を食べに湊部屋全員を連れて行ってくださいました。
同じ年の五月場所も湊富士関は貴乃花関に勝ち、九月場所で湊富士関に対し貴乃花関が立ち合い変化(貴乃花関が勝ちました)したことも含めて、とても鮮明に想い出に残っています」

 

平成10年(1998年)初場所十日目、一敗で優勝争いをしていた横綱貴乃花と平幕湊富士の一番。勝負審判として見守っていた先代湊親方の目の前で、湊富士が腕捻(かいなひね)りという珍しい決まり手で金星を挙げます。勝った後の親方の表情は厳しいことで知られる表情そのままのように見えますが、その相好を崩すような行司のエピソードでした。

 

 

平成16年七月場所中日

朝青龍 ○切り返し● 琴ノ若

選出者:若者頭

選出コメント:「朝青龍関の勝ちへの執念を感じました」

 

平成16年(2004)年、名古屋。一人横綱だった朝青龍と、当時36歳で前頭二枚目の琴ノ若との一番は、相撲史に残る満場騒然の大相撲となりました。琴ノ若の力強い上手投げと、ブリッジの体勢で耐え抜いた朝青龍の勝ち星への執念。琴ノ若のついた手は「かばい手」だったとして琴ノ若に上がった軍配に、激しく座布団が舞います。物言いからの長い協議の末、取り直しとなり、横綱は不屈の精神を貫きました。十五日間ある本場所ですが、一日一日の重みを感じる一番です。
 

 

平成24年五月場所千秋楽 優勝決定戦

栃煌山 ●叩き込み○ 旭天鵬

選出者:呼出

選出コメント:「史上初の平幕同士の決定戦だったので私が呼び上げる事になり、凄く緊張して足が震えたのを今でも覚えています」

 

平成24年(2012年)の五月場所は、早い段階で番付上位陣に土が付き、千秋楽、史上初めて平幕同士の優勝決定戦が行われました。3敗同士で並んだのは、前頭4枚目の栃煌山と、7枚目の旭天鵬。叩き込みで栃煌山を破り、自身初の幕内最高優勝を果たした37歳8か月のベテランの目には、光るものが。「呼び上げは凄く緊張した」と語った選出者のヒントは……今は三役呼出のあの方です!
 

 

平成29年十一月場所千秋楽

千代翔馬 ●上手出し投げ○ 安美錦

選出者:呼出

選出コメント:「安美錦関がアキレス腱断裂から復帰して再入幕した千秋楽、勝ち名乗りをうけた後に涙を流していて、水つけをしながらもらい泣きをしました」

 

前年の平成28年(2016年)五月場所に左アキレス腱を断裂してから、同年九月場所に土俵復帰し、翌年十一月場所に39歳6か月で再入幕を果たした安美錦。7勝7敗で迎えた千秋楽、同じく8勝目がかかっていた千代翔馬を上手出し投げで退け、勝ち越しを決めます。不撓不屈の精神を、土俵上で体現した安美錦。その姿は、選出者だけでなく、多くの人の心を勇気づけるものだったに違いありません。
令和の今にも語り継がれる「大相撲」を、是非ご覧ください。

 

 

【百周年特別企画】協会員が選ぶ「想い出の一番」    
≪第1回:昭和時代~その1~≫
≪第2回:昭和時代~その2~≫